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EARTHSHIELD®の仕様はどうやって決めているのですか?



サーベイメーター用コリメーターに関する測定実証実験
(EARTHSHIELD® Model-E仕様決定プロセスの再現実験)


1.背景
 2011年3月の福島第一原子力発電所事故発生以来,フィールドでの放射線測定が広く行われている.環境省の除染関係ガイドラインも定められ,汚染の状況を確認するために①-1地表面から50cm,100cmの空間線量当量率の測定と,②-1地表面から1cm以内の表面線量率の測定を行なう.また,除染作業後に,除染効果を確認するために①-2空間線量当量率と②-2表面線量率の測定を行う.
 ①の空間線量当量率による除染前後の測定値比較は,広い範囲の面的な除染を行わないと,その効果の確認は難しい.一方,②の表面線量率は,周辺からの放射線の影響を,最小限にするコリメーターを使用して測定することにより,信頼度の高い測定をすることが出来る.
コリメーターを使用した測定方法については,環境省の除染ガイドラインの「6.測定機器と使用方法」に記述されている.サーベイメーターに関しては,校正済みであることや,エネルギー補償型であることなどの要件が規定されているものの,コリメーターに関しては形状,厚さなどの要件について,何ら規定されていない.
弊社では,コリメーターのあるべき仕様を模索してきた.本実証実験は,正確な測定を行うことができ,現場での実用に耐えるコリメーターの仕様を決定することを目的とする.

2.使用機材等
2.1サーベイメーター
 広く使用されている日立アロカメディカル株式会社製の以下のサーベイメーターを用いた.
①NaIシンチレーションサーベイメーターTCS172B(以下「TCS172B」という)
②GMサーベイメーターTGS146B(以下「TGS146B」という)

2.2線源
 実験にはセシウム137密封線源を用いた.
線源①:3.7×108Bq(1986年4月1日)
線源②:3.3×106Bq(1987年3月13日)

2.3実験場所
首都大学東京荒川キャンパス RI試験室

3.実験
3.1コリメーターの高さをパラメーターとした試験
 実験にはTCS172Bを使用した.まず,鉛板による予備試験の結果,鉛の厚みを1cmに固定し,設置面からの高さを3cm,5cm,7cm,8cm,12cmにした5種類のコリメーターを使用して測定した.いずれのコリメーターも,2mm厚のステンレスで円筒形状の鉛の外表面を覆った.
TCS172Bの最大測定範囲は30µSv/hであるので,写真3-2,図3-1に示すように,線源をプローブを挿入したコリメーターの表面位置から13cm及び20cmの位置にして線量を調整した.線源として,線源①を使用した.線源は図3-1に示すように設置し,一方向に照射されるようにした.なお,鉛格納容器①周辺を0.01µSv/h〜0.1Sv/hの測定範囲を持つサーベイメーター(Mirion Technologies製RDS31)を使用して,放射線の漏れがないことを確認した.また,模擬環境の放射線量に変化がないことを確認するため,コリメータ周辺の線量を継続的に測定した.

写真3-1実験用機材

写真3-2測定中

図3-1 線源設置概略図
測定は,時定数10秒に設定し,1分間測定待機後,10秒毎に10回行った.測定値は,その平均値を取った. ケース1では,線源とプローブをセットしたコリメーターの距離を13cmに,ケース2では,その距離を20cmにして測定を行った.それぞれのケースの測定平均値を表3-1に,そのグラフを,図3-2に示す.
表3-1コリメーターの高さと測定値平均

※1コリメーター なし


図3-2高さによる変化のグラフ
※画像をクリックすると拡大します

いずれのケースの場合も,シンチレーターが内蔵されているプローブ先端部分から高さ5cmでほぼ変化がなくなり,7cmで飽和している.先端部分から7cmの遮へい体を配置したコリメーターで,周辺の放射線の影響をなくすることが確認出来た.

3.2 鉛厚をパラメーターとした試験


写真3-3 鉛厚をパラメーターとした試験
図3-3及び写真3-4に示すように,線源①を鉛格納容器①の中に装填し,模擬の測定環境周辺の放射線環境を作った.


図3-3 模擬放射線環境略

コリメーターの遮へい厚みが異なるので,コリメーター表面と線源の距離ではなく,プローブの表面と線源の距離として,常に67cmとなるようにした.コリメーターのない状態で,模擬の測定環境周辺の測定値はTCS172Bで7.86µSv/h,TGS146Bで4,061CPMであった(時定数10秒,10回平均値).
測定対象となる線源②とプローブ,コリメーターの配置関係は,図3-4の様になる.
線源②は,実験中,下からも放射線が漏れないように防護用の鉛板を敷き,その上に全体高さ10cm,鉛厚5cmの鉛格納容器②の中に設置し,写真3-5に示すように,線源②を装填した.


写真3-5 測定対象となる線源②

図3-4 測定対象線源② 測定概略図



写真3-5 測定対象となる線源②

写真3-6 線源②測定状況


その上,写真3-6に示すようにプローブをセットし,線源②からの放射線を測定した.線源①からの線量がない状態で,線源②を測定した結果,TCS172Bで1.41µSv/h,TGS146Bで2,142CPMであった(表3-2).
線源①による模擬測定環境周辺の空間線量当量率は,測定対象となる線源②による空間線量当量率の5倍以上となり,周辺環境から受ける線量の高い状態を作ることが出来た.

表3-2 模擬環境と測定対象の線量
 コリメーターは5種類準備した(写真3-7).本体高さ9cmに固定した,鉛の厚みが7mm,10mm, 15mm, 22mmの4種類と,補助コリメーターとして高さ7cm鉛厚12mmの5種類となる.
 この9cmという高さは,「3.1コリメーターの高さをパラメーターとした試験」の結果得られた,プローブ先端から高さ7cm以上を遮へい体で覆う形状を基本としている.但し,プローブ先端と測定対象面との距離は0cmではなく,5mmから10mm以内である.断面の概略を図3-5に示す.

写真3-7 5種類のコリメーター
左から鉛厚7mm,10mm, 15mm, 22mm
右端下は補助コリメーター鉛厚12mm

図3-5 断面略図

4種類の厚みの本体コリメーターを使用し,測定を行った.また,鉛厚15mmのコリメーターを使用した際,写真3-8に示すように,鉛厚12mmの補助コリメーターを本体の中に入れ,付加した合計厚み27mmのコリメーターで測定を行った.

写真3-8 補助コリメーターの配置
測定条件の測定方法と同様,時定数10秒にて10回測定した.測定値を表3-3に示す.
表3-3 コリメーターの鉛厚と線量率
線源線量と測定値の差を求めた.また,測定差の値が,測定対象とした線源とどの程度の差分が生じるか,検証を行った.その結果を,表3-4,図3-6,3-7に示す.
線量当量率は,図3-6で示す通り,コリメーターの厚み27mmの時に線源①からの空間線量率が完全にカットされ,その数値は1.41µSv/h(線源②からの寄与分のみ)となった.また,計数率は図3-7で示す通り,鉛の厚みが15mmで測定対象とほぼ同値になった.

表3-4 測定差と差分


図3-6 TCS172Bでの測定結果

図3-7 TGS146Bでの測定結果

3.3 コリメーターの重量

 測定値の精度から考えると,コリメーターの設計鉛厚は15mm以上であることがよいことがわかった.より正確な測定と現場での取扱のし易さ(重量)について検証する.
本実験に使用したコリメーターの重量を表3-5に示す.高さは,本体9cm,補助遮へい7cmである.

表3-5 コリメーターの重量

※本体重量は蓋及びハンドルを含む

測定精度の担保が出来る鉛厚15mm,22mmの2種類のコリメーター及び補助遮へい体の重量を比較した.
① 本体15mmタイプ  9.0Kg
② 小型補助遮へい体  2.1Kg
③ 本体22mmタイプ 15.7Kg
 線量当量率,計数率共に最も正確に測定出来た①+②の組み合わせは,11.1Kgとなる.③本体22mmタイプに比較して4.6Kg軽量である.

3.4 コリメーターのトレイについて
 コリメーターには,表面測定時には使用しないトレイが付属する.トレイの上に,本体コリメーターを乗せて使用する.


写真3-9  トレイ

写真3-10 トレイ+本体コリメーター


 トレイは,本体コリメーターと同様,15mmの鉛を2mmのステンレスで覆ってある.本体コリメーターをトレイに乗せると,遮へいされた空間が出来る.以下この状態を「トレイ+本体コリメーター」と表記する.
 トレイ+本体コリメーターにプローブを挿入して測定すると,コリメーター内の線量を測定することが出来る.この測定には3つの利用方法がある.

サーベイメーターの簡易校正を行う際,トレイ+本体コリメーター内部に線源を入れて蓋穴から上部に出る放射線を測定する.コリメーター底部より漏れる放射線をなくし,検査員の被ばく防止が出来る.

サーベイメーターのプローブが汚染されていないか確認する際,同一の屋内で,測定作業前後に,トレイ+本体コリメーターにプローブを挿入し測定する.前後の値より,作業中にプローブが汚染されていないかを確認出来る.

コリメーター内にも透過してくる放射線はある.TCS172Bを使用した測定で,補助コリメーターを使用するべきかの判断をする際に,トレイ+本体コリメーターにプローブを挿入し測定することで,コリメーターの遮へい体を透過してくる放射線量を確認出来る.誤差要因となる透過線量が確認出来る.


 線源①を鉛格納容器③に装填し,トレイ+本体コリメーター及びTCS172Bで,透過放射線測定実験を行った.結果を表3-6に示す.

写真3-11  透過放射線測定実験

表3-6 模擬環境による透過放射線量測定値


4. コリメーターの設計

写真4-1 コリメーター本体
 コリメータの重さと厚みについては,厚さ15mm,重量9.0Kgのものが,測定精度,取扱重量等から考えて最適と思われる.さらに,バックグラウンドの高い場所では,補助遮へい体(厚さ12mm,重量2.1Kg)を付加して使用することを推奨する.
移動時の落下事故防止や,取扱のしやすさを考え,何度も改良を加えた.
現在最も取り扱いしやすいコリメーターは,写真4-1に示すように,主ハンドルと副ハンドルを付加したものを開発した.①コリメーターにプローブを挿入する際にプローブがあたらず,②主ハンドルを持って移動する際に,遮へい体部分が地面にぶつからないという二つの要件を満たす長さとして,主ハンドルの長さは30cmで固定した.
壁面や法面などの測定を行うときには,両手でコリメーターを保持する必要がある.コリメーターの遮へい体部分に副ハンドルを設けた.

コリメーターは,屋外での使用後,洗剤や水を使用して表面を除染する必要がある.また変形による溶接部の破損により,鉛が出てくることは防ぎたい.外装には耐食性,溶接性に優れたSUS304を採用した.

5.まとめ
 日立アロカメディカル(株)製のTCS172B及びTGS146Bを使用して,バックグラウンドの線量当量率をできる限り小さくすることと,現場での測定作業のしやすさを考慮した,コリメーターの性能を評価した.
 コリメーターの高さは,3cm〜12cmまで5種類について測定実験をし,9cmが最適と判断した.
 次に,高さを9cmと固定し,鉛厚さ7mm〜22mmの4種類と,15mm+補助遮へい体12mm(鉛厚合計27mm)の5種類について測定実験をし,15mm以上の厚さであれば,必要とする精度でバックグラウンドの影響を小さくして測定出来ることが判明した.
 しかしながら,野外での持ち運びや測定する場所の足場を考えると,鉛を充填した蓋と,2つの取り扱いハンドルを備えた遮へい体,合計高さ11cm,厚み15mmのコリメーターが最も適切であると考える.
 さらに,バックグラウンドの高い場所では,厚さ12mmの補助遮へい体の使用も有効である.



6.終わりに
 東日本大震災という不幸な出来事の影響で福島県をはじめ,広範囲な地域が,放射能汚染地域となった.汚染地域では広く除染が行われている.除染は掃除と異なり,放射性物質を回収保管することで,環境放射線を低減することが目的である.そのためには,正確な測定をすることが重要である.  除染を待つ市民も,自治体の担当者も,除染・測定作業をする人も,その地域住民であることには変わりはない.皆,復旧と復興を願っている.そして,それぞれの分野で懸命に作業を行っている.
筆者自身,株式会社EARTHSHIELD(福島県郡山市)と共に,2011年4月から除染に取り組み,現場での作業にあたり,除染現場における測定の難しさを痛感してきた.また,サーベイメーターという精密な測定器の日頃の管理にも取り組んできた.サーベイメーターが汚染されていたのでは,正確な測定が出来ないからである.
放射線測定は,汚染状況確認や,除染効果を正しく認識出来る「唯一」の方法である.コリメーターという一つの治具が,精度ある除染作業に寄与し,除染が一日も早く完了することを,心から願ってやまない.

最後に,本実験の実施と論文に関して貴重なご指導を賜った,首都大学東京健康福祉学部放射線学科大谷浩樹准教授,並びに工学博士大島博文殿の両氏,本研究の遂行にあたり甚大なご支援をいただいた株式会社EARTHSHIELDの皆様に,厚く謝意を申し述べます.

以上